クラリネットの音が鳴る仕組みについて

クラリネットを演奏する人

クラリネットの音が出る仕組み

クラリネットを含むリード楽器は、リードを振動させるさせることで、音を鳴らしています。
クラリネットの発音機構は、“非線形振動体としてのリード”と“閉管円筒の空気柱”が相互作用する高度な音響システムです。
音楽が必要とする息で、これらの音響システムを鳴らすことが重要となるため、ブレスコントロールを支える日々の練習がとても重要になってきます。
ここでは、音響学・流体力学・振動工学の観点から、クラリネットの音がどのように生まれるのかを専門的に解説します。

リード各部位の名称

「The Clarinet」

https://clarinetassignment.weebly.com/physical-parts-and-material.html

(2026年6月4日閲覧)

下記は、画像に記載されている内容の日本語訳一覧です。

■ 右側の略称リスト (部位の名称)

  • T : Tip
    └ 日本語訳:ティップ(先端)
  • R : Resistant Point
    └ 日本語訳:レジスタント・ポイント(抵抗点 / 吹き心地の抵抗感に影響する部分)
  • C : Corner
    └ 日本語訳:コーナー(角 / 先端の両端)
  • U : Upper Range
    └ 日本語訳:アッパー・レンジ(上部エリア)
  • M : Middle Range
    └ 日本語訳:ミドル・レンジ(中央エリア)
  • L : Lower Range
    └ 日本語訳:ロアー・レンジ(下部エリア)
  • H : Heart
    └ 日本語訳:ハート(中心部 / 最も厚みがあり、音の芯を作る重要な部分)
  • E : Edge
    └ 日本語訳:エッジ(側面 / 縁)
  • LR : Low Reed(※画像ではReadと誤記されていますが、リードの根元部分を指します)
    └ 日本語訳:ロウ・リード(リードの下部 / ヒールに近い部分)

■ その他のテキスト

  • Center Line
    └ 日本語訳:センターライン(中心線)
  • Copyright (c) 2002 Heejeong Kye. All rights reserved.
    └ 日本語訳:著作権 (c) 2002 Heejeong Kye. 不許複製・禁無断転載。

■ リード本体の刻印(参考)

  • Made in Germany:ドイツ製
  • French I:フレンチカット(ファイルドカット)のタイプI
    4:リードの硬さ(厚さ)の番号

■1. リードは「自励振動」を起こす非線形振動体
クラリネットのリードは、外力によって揺らされる受動的な振動体ではなく、息の流れによって自ら振動を維持する「自励振動系(self-sustained oscillator)」です。
息を吹き込むと、リード先端の狭い開口部を通る空気の流速が上昇し、圧力が低下するベルヌーイ効果が生じます。
この圧力低下によってリードはマウスピース側に吸い寄せられ、開口部が閉じます。
閉じた瞬間に空気流が遮断され、内部圧力が上昇し、リードは自身の弾性力によって再び開きます。
この「開く→閉じる」の周期運動は、外部からの周期的な力がなくても持続するため“自励振動”と呼ばれます。

さらにリードは「非線形振動体」としての性質も持っています。
非線形振動体とは、入力(息の圧力)と出力(リードの開閉)が単純に比例せず、状態によって振る舞いが急激に変化する振動体のことです。
リードの開口面積と空気流量の関係は比例せず、わずかな圧力変化で急に閉じたり、逆に大きく開いたりするなど、強い非線形性を示します。
この非線形性こそが、クラリネット特有の豊かな倍音構造や音色の複雑さを生み出す重要な要素となっています。

■2. リード振動は「先端数ミリのみ」が主に動いている
高速度カメラによる実験では、リード全体がしなるのではなく、先端の数ミリが主に振動していることが確認されています。
これはリードの材質(ケーンの密度・繊維方向)やフェイシングカーブの形状によって決まるもので、マウスピース設計の重要な要素です。
また、リードは完全にマウスピースに接触する瞬間があり、これは「完全閉鎖モデル」として扱われます。
この閉鎖があることで、クラリネットの音はより安定し、倍音構造が明確になります。

■3. クラリネットは「片側閉管の円筒形」であるため奇数次倍音(奇数倍音)が強くなる

リードの振動モード

「Example of Scientific Illustration」

https://www.edrawsoft.com/scientific-illustration-examples.html

(2026年6月4日閲覧)

下記は、画像に記載されている内容の日本語訳一覧です。

■ タイトルと記号の解説
* Closed Pipe Harmonics
└ 日本語訳:閉管の倍音(振動モード)
* N = Node
└ 日本語訳:N = 節(ふし / 振動が最も小さい部分)
* A = Antinode
└ 日本語訳:A = 腹(はら / 振動が最も大きい部分)

■ 図の中の記号・補足
* L
└ 日本語訳:管の長さ(管長)
* (a)
└ 日本語訳:基本振動(第1倍音)
* (b)
└ 日本語訳:第3倍音
* (c)
└ 日本語訳:第5倍音

※閉管(クラリネットのように片方が閉じている管)では、閉じた側が必ず「節(N)」、開いた側が必ず「腹(A)」になり、奇数倍音(第1、第3、第5…)のみが発生する特性を表しています。


クラリネットの管体は円筒形で、マウスピース側が閉端、ベル側が開端となる「閉管系」です。
ここでいう閉端とは、空気が動けず圧力だけが変化する“行き止まり”の端で、マウスピース側のようにリードでほぼ密閉されている部分を指します。
一方、開端とは空気が自由に出入りできる“開いた端”で、ベル側のように外気とつながっている部分を指します。
閉端では空気の速度がゼロ(節)、圧力変動が最大(腹)となり、開端ではその逆に空気速度が最大(腹)、圧力変動が最小(節)になります。

閉管の共鳴周波数は奇数次のみに現れ、1次、3次、5次…というモードが強く励起されます。
これにより、クラリネットの音色は柔らかく、丸みのある特徴的な響きになります。

開管楽器(フルートなど)は偶数次倍音(偶数倍音)も含むため明るい音色になりますが、クラリネットは奇数次が支配的なため、同じ音高でも音色が大きく異なります。

Information
  • 奇数倍音が支配的(Odd-dominant)

※「閉管円筒」系の特徴が強い

クラリネット(特に低音域)
バスクラリネット
クラリネット属全般(ただし完全ではなく偶数も弱く存在)

  • 偶数倍音が支配的(Even-dominant)

※「偶数が特に強い」という楽器は実は非常に少ない
※オーケストラではほぼ存在しない

(該当なし)
※弦楽器や金管は偶数が強くなる場面はあるが“支配的”とは言えない

  • 奇数・偶数どちらも支配的(Mixed-dominant)

※ほとんどの楽器がここに入る
※音色は倍音の“偏り”より“構造・材質・奏法”で決まる

フルート
ピッコロ
オーボエ
イングリッシュホルン
ファゴット
サクソフォン
ホルン
トランペット
トロンボーン
ユーフォニアム
チューバ
ヴァイオリン
ヴィオラ
チェロ
コントラバス
ハープ
ピアノ
打楽器の多く(ティンパニ、マリンバ、シロフォンなど)

  • どちらにも属さない(倍音構造が特殊)

※「倍音が整数倍にならない」=非調和倍音(inharmonic overtones)

ティンパニ(膜振動で非調和倍音)
シンバル(非調和倍音)
ゴング(強い非調和倍音)
鉄琴・グロッケン(非調和倍音が多い)
チューブラーベル(部分的に非調和)

■4. リードと空気柱は「双方向に影響し合う相互作用系」

音響インピーダンスのグラフ

「Acoustic Impedance Measurements」

https://www.slideserve.com/annrowe/acoustic-impedance-measurements-powerpoint-ppt-presentation

(2026年6月2日閲覧)

下記は、画像に記載されている内容の日本語訳一覧です。

【対訳】What Really is Acoustic Impedance? / 音響インピーダンスとは、本当は何なのか?

■ 導入
Take a look at this typical impedance spectrum:
(この典型的なインピーダンス・スペクトルを見てみましょう:)

■ 箇条書き(左側)
Blue lines (maxima) are accessible frequencies
(青い線[極大値/ピーク]は、アクセス可能な[鳴らしやすい]周波数です)

Red lines (minima) are inaccessible frequencies
(赤い線[極小値/ボトム]は、アクセスできない[鳴らしにくい]周波数です)

The first peak is the fundamental
(最初のピーク[一番左の山]は、基本音[基音]です)

Subsequent peaks are harmonics
(それに続くピークは、高調波[倍音]です)

Harmonics decrease in amplitude – just as in the overtones of an instrument
(高調波は振幅が減少していきます ─ これは、楽器の倍音[オーバートーン]と同じ現象です)

■ グラフの軸と注記(右側)
Acoustic Impedance [acoustic Ohms]
(縦軸:音響インピーダンス [音響オーム])

frequency [Hz]
(横軸:周波数 [ヘルツ])

Image modified from J. Backus, J. Acoust. Soc. Am. 54, 470 (54)
(下部注記:画像は J. Backus 著『米国音響学会誌』54巻 470ページ より改変)


クラリネットの音は、リードの振動と空気柱の共鳴が独立して存在しているわけではなく、両者がリアルタイムで相互作用しています。
リードの開閉によって空気流量が変化し、それが空気柱の圧力変動を生みます。
逆に、空気柱の圧力変動がリードの動きを制御し、振動の周期や振幅に影響を与えます。
この双方向のフィードバックは「音響インピーダンス」の概念で説明されます。
音響インピーダンスとは、空気柱が特定の周波数の振動に対してどれだけ“動きにくいか/動きやすいか”を示す指標で、 電気回路におけるインピーダンスと同様に、振動の流れ(空気速度)と圧力の比として定義されます。
インピーダンスが高い周波数では空気柱が強く反応し、圧力変動が大きくなるため、リードの振動をその周波数へと引き込みます。
クラリネットの管内インピーダンスは特定の周波数で高くなり、その周波数が音高として選択されます。
つまり、リードは自由に振動しているのではなく、空気柱が“振動しやすい周波数”にリードを引き込んでいるのです。

■5. クラリネットが12度で上がる理由
クラリネットがレジスターキーを押すと12度上がるのは、クラリネットが閉管円筒であり、共鳴モードが奇数次(1次・3次・5次…)のみ強く励起されるためです。
閉端では空気速度が節、圧力が腹となり、開端ではその逆になり、この境界条件により、閉管の固有振動数は f₁ , 3f₁ , 5f₁ … という奇数倍系列になります。
レジスターキィは管内の圧力腹を破壊し、1次モードを抑制して3次モードを選択的に励起する働きを持ち、3次モードは基音の3倍の周波数であり、音程としては1オクターブ+完全5度(12度)上昇します。
これがクラリネット特有のレジスター跳躍の物理的理由であり、この構造的特性がクラリネットの運指体系を複雑にし、独特の音階構造を生み出しています。

※固有振動数を表す f は frequency(周波数)の略です。

■6. トーンホールは「空気柱の実効長」を変える装置
クラリネットのトーンホールは、単に“空気が出る穴”ではなく、空気柱の長さを決定する重要な音響要素です。
穴を開けると、その位置が新たな開端として機能し、空気柱の実効長が短くなります。
逆に閉じると長くなります。
ただし、トーンホールの大きさ・位置・管径との関係により、実効的な開端位置は物理的な穴の位置とは完全には一致しません。
これがクラリネットの音程補正や運指設計を難しくしている理由のひとつです。

■7. ベルは「低音の補正装置」として機能する
クラリネットのベルは単なる音の出口ではなく、低音域の音程補正に大きく寄与しています。
ベルの形状は音響インピーダンスを滑らかに変化させ、特にE♭やFなどの低音のピッチを安定させます。
ベルの設計はメーカーごとに異なり、音色や吹奏感に影響します。

■8. 材質・マウスピース・リードは「振動効率」に影響する
グラナディラ、ベークライト、樹脂などの材質は、管体の内部損失(エネルギー吸収量)に影響し、音色の明暗や響きの深さを変えます。
また、マウスピースのティップオープニング、フェイシングカーブ、リードの硬さ・密度などは、リードの振動モードに直接影響し、発音のしやすさや倍音構造を変化させます。

■9. リードミスが起こる物理的原理
リードミス(音が裏返る・発音しない・意図しない倍音が出る)は、単なる「吹き損じ」ではなく、以下のような物理現象によって起こります。

●(1)リードと空気柱の「ロックイン」が崩壊する
クラリネットの発音は、リード振動が空気柱の共鳴周波数に同期(ロックイン)することで成立します。
しかし、以下の条件が揃うとロックインが破綻します。

– 息圧が急激に変化した
– アンブシュアが不安定になった
– 空気柱のインピーダンスが変化した(運指の境界音など)
– リードが硬すぎる/柔らかすぎる
– リード先端の閉鎖が不完全

ロックインが崩れると、リードは空気柱の共鳴周波数に同期できず、
「意図しない周波数で振動する」
→ これがリードミスの正体です。

●(2)空気柱が別のモードに“飛び移る”
特に中音域〜高音域では、空気柱が複数のモード(1次・3次・5次…)のどれでも振動し得る状態になります。
このとき、息の角度や圧力がわずかに変わるだけで、空気柱が別のモードにジャンプし、
– 裏返る
– 意図しない高い音が出る
– 発音しない
といった現象が起こります。

●(3)リードの閉鎖が不完全になる
リードが完全に閉じる瞬間があることで、発音は安定します。
しかし、
– リードが古い
– 水分で柔らかくなっている
– マウスピースとの相性が悪い
などの場合、閉鎖が不完全になり、振動が乱れます。

これもリードミスの主要因です。

■10. まとめ
クラリネットの音は 「リードの自励振動 × 閉管円筒の奇数次共鳴 × トーンホールによる空気柱制御 × ベルによる低音補正 × ロックインによる安定化」 という複雑な音響システムによって生まれています。
そしてリードミスは、このシステムのどこかで同期が崩れたときに発生する現象です。

単純な“リードが振動するから音が出る”という説明では捉えきれない、精密で高度な物理現象がクラリネットの音色と演奏の難しさを形作っているのです。

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