クラリネットが黒い理由について

クラリネットが黒い理由
クラリネットをはじめとする木管楽器の管体が黒いのは、主にアフリカに自生するマメ科の植物で、African Blackwood(アフリカン・ブラックウッド)や Dalbergia melanoxylon(グラナディラ)と呼ばれる、学名Dalbergia melanoxylon(ダルベルギア・メラノキシロン)の固有の色であり、音響的または外見的な理由で黒くしているわけではありません。
グラナディラは、高密度材で非常に重く、湿度変化に強く、寸法安定性が高いため、精密な内径が要求される楽器に適しています。
1. グラナディラは、比重1.1~1.3の高密度材で、自然に黒色を呈します。高密度で硬く、寸法安定性が高いため、精密な内径を維持しやすく、楽器として安定した性能を発揮します。
2. グラナディラは、剛性が高く、管体が不要に振動して音を乱すことを防ぎます。ただし、クラリネットの音色に対する材質の影響は限定的であり、主に音色を決めるのは管の形状・内径・トーンホール設計であるとする研究が一般的です。
3. 油分が多く吸湿しにくいため、湿度変化による寸法変化が小さく、割れにくく、長期的に安定した状態を保ちます。これがクラリネット材として選ばれる大きな理由です。
4. 散乱損失は表面粗さや段差などの加工精度によって決まり、材質の色とは無関係です。黒色が音響インピーダンスを安定させるという科学的根拠はありません。樹脂クラリネットが黒いのは、木製クラリネットの外観を模倣するためです。
散乱損失と内部損失の違い
内部損失=材質内部で音エネルギーが熱に変換されて減衰する現象(材質固有の性質)
散乱損失=表面の凹凸や段差で音が乱されてエネルギーが散る現象(表面状態の性質)
散乱損失と内部損失はどちらも音エネルギーの減衰に関わりますが、発生メカニズムが異なります。クラリネットの場合、音響特性に大きく影響するのは材質そのものよりも、管内の形状精度・表面仕上げ・トーンホール設計などの要素です。グラナディラは寸法安定性と加工精度の高さから、結果として散乱損失の少ない管体を作りやすいという利点があります。
クラリネットにグラナディラやココボロが選ばれる理由
1. 極めて高い密度と剛性
グラナディラは、比重が約1.2前後と非常に高く、木材としては最上位クラスの密度を持つ。高密度材は管体の不要振動を抑え、音響インピーダンスを安定させるため、木管楽器に適している。Dalbergia retusa(ココボロ)も同様に高密度で、木質が緻密で加工精度を確保しやすい。
2. 寸法安定性と吸湿の少なさ
グラナディラは導管に樹脂が詰まっており吸湿が遅く、湿度変化による寸法変化が小さい。これはクラリネットのように「内径の精密さ」が音程・音色に直結する楽器にとって極めて重要。経済産業省資料やメーカー情報でも、寸法安定性の高さが主要な採用理由として挙げられている。
3. 加工精度の高さと耐久性
高密度で割れにくく、精密なトーンホール加工や内径仕上げが可能。長期使用に耐える耐久性を持ち、プロオーケストラの過酷な使用環境でも性能を維持できる。
4. 音響的には「材質より形状」が支配的
研究では、クラリネットの音響特性を決める主要因は「内径形状」「トーンホール設計」「表面仕上げ」であり、材質の違いは二次的とされる。高密度材はこれらの精度を維持しやすいため、結果として音響的に有利になる。
などの理由が挙げられます。
国際規制(CITES)とクラリネット材の現状
1. グラナディラは CITES附属書IIに掲載
Dalbergia melanoxylon(アフリカン・ブラックウッド/グラナディラ)は、2017年のCITES第17回締約国会議(CoP17)で附属書IIに指定されました。これは「現在は絶滅危惧ではないが、規制しなければ将来危険になる種」であり、商業取引は可能ですが輸出許可書が必要となります。
2. ココボロも CITES附属書IIの規制対象
Dalbergia retusa(ココボロ)を含むDalbergia(ローズウッド)属全種は、2017年のCoP17で附属書IIに一括指定されました。家具・工芸品・銃床などでの乱伐や違法伐採が深刻化したためで、国際商取引にはグラナディラと同様に輸出許可書が必要となります。クラリネットやオーボエなどの木管楽器に使用される場合も規制対象となります。
3. グラナディラの附属書Iへの引き上げ提案
2025年のCITES CoP20に向けて、グラナディラを附属書I(最も厳しい規制)に引き上げる提案が提出されています。附属書Iになると商業目的の国際取引は原則禁止となり、楽器製造や国際移動に重大な影響が出る可能性があります。
4. 日本では「楽器証明書制度」が導入
CITES対象材を含む楽器を海外公演などで持ち出す際、従来は都度許可書が必要でしたが、2021年7月1日から「楽器証明書制度」が導入され、最大3年間有効の“パスポート”として繰り返し使用できるようになりました。
5. 楽器証明書の対象
・附属書I~IIの動植物を使用した楽器
・非商業目的(演奏・展示・コンクール等)での越境移動
・日本に必ず持ち帰ることが条件
6. 規制強化が進む背景
・アフリカン・ブラックウッドの主産地(タンザニア・モザンビーク)での過剰伐採
・ローズウッド属全体での違法伐採・国際的需要増大
・森林資源の減少と生態系保全の必要性
これらが国際的な保護強化の議論を加速させています。
クラリネット材質とグレード別の価格帯
※日本国内の実勢価格ベース2026年6月6日時点
■ グラナディラ(最も一般的な木材)
● 初級者向け:10~20万円
例:YAMAHA YCL-450 / Buffet E12F
● 中級者向け:60~110万円
例:Buffet R13 / Festival / Tradition
● 上級者向け:110~160万円
例:Buffet Tosca / Legende / Yamaha CS/SE Custom / Backun Lumière(Grenadilla)
■ ココボロ
● 初級者向け:存在しない
● 中級者向け:ほぼ存在しない(国内流通は極めて稀)
● 上級者向け:100~160万円
例:Backun MoBa Cocobolo / Lumière Cocobolo
まとめ
- グラナディラ/ココボロが選ばれるのは、
・高密度
・寸法安定性
・加工精度
・耐久性
といった物理特性が、クラリネットの音響要求に極めて適しているため。
- 一方で、これらの木材はCITES規制対象であり、
・輸出入には許可書が必要
・日本では楽器証明書制度が導入
・附属書Iへの引き上げ提案も存在
といった国際的な制約が強まっている。
- 今後、持続可能な供給と楽器文化の両立が大きな課題となる。
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